●「ある日の記 〜新宿23時45分〜」
 「今日は結構飲んじまったな。早く帰って寝べえ・・・。」
 俺は西口にあるヨドバシ近くの某チェーン系居酒屋を出て友人と別れ、家路につくべく大ガードの方にある川急線の新宿駅へ向かった。


 俺には小田急沿線に住んでいる友人がいる。その友人とは月に一、二度会うのだが、彼の都合もあって新宿で飲む事が多い。俺の家は東上線高坂駅の近くにあるから、普段は飲んだ後、山手線で池袋に出て東上線で帰る。

 しかし、終電間際まで飲んでいて時間に余裕がない時は、川急線で川越に出て、そこから東上線に乗る。これだと、池袋周りよりも15分ほど遅くまで新宿にいられる。終電間際での15分は貴重な時間だ。今日はついつい話し込んでしまって店を出るのが遅くなったので川急で帰ることになった。


 川急新宿のホームに上がって、23時45分発の急行熊谷行きに乗る。すでに入線してドアを開けているので、当然ながら座れない。この列車は熊谷行き最終で、川越で東上線森林公園行き最終、上伊草で鴻巣行き最終列車にも接続するのでかなり混む。

 東上線の終電(池袋発23時48分の森林公園行き最終)と並んでできれば乗りたくない列車だが、この後の0時ちょうど発川急松山行き最終だと、川越で森林公園行き最終に間に合わないので我慢して乗るしかない。

 ただ、熊谷行き最終に乗り損なって仕方なく松山行き最終で帰った事は何度かある。新山崎駅が一応家からは近いが3km以上離れている。金に余裕がある時はタクシーに乗るが、そうもいかなくて1時間近く歩いた事もある。酔いが覚めきらない中、暗い夜道を長々と歩くのは結構つらい。


 乗り込んでしばらくすると発車時間になった。だが、最終と言う事で接続待ちで遅れる事が多い。結局今日は2分遅れで新宿を発車した。


 「本日も川越急行線をご利用いただきましてありがとうございます。ご乗車の列車は、急行電車の熊谷行きです。川急中野、北高円寺、石神井公園、北大泉、新座、大和田、亀久保、川越の順に停まります。川越から先は、終点熊谷まで各駅に停まります。なお、この列車は東平から先熊谷までの最終列車です。また上伊草で鴻巣行き最終列車に連絡いたします。お降り間違いのないようご注意ください。続いて主な駅の到着時刻をご案内いたします・・・。」

 新宿を出ると長々と案内放送が続き、それが終わるころには宝仙寺を通過してもうすぐ川急中野というところだ。

 川急中野、北高円寺と続けて停まるが、北高円寺では、やはり東西線の接続待ちで1分強待った。大した時間ではないが、体内にアルコールが残っている状況では立っているのもしんどく、長く感じる。

 北高円寺で東西線からの乗り換え客を乗せてさらに混雑しつつも、列車は熊谷目指して走りつづける。石神井公園は西武池袋線との乗換駅で大分乗客が減るが、それでも座れるほどには空かない。もっとも、新宿の時点で座っている乗客は、川越、あるいは上伊草以遠の長距離利用者が多いから、この辺で座るのは難しい。


 石神井公園を出ると、北大泉、新座、大和田と停まる。車内は徐々に空いてくるが、なかなか座れない。正直つらい。早く座りたい。いや、早く帰りたい。

 亀久保で目の前の席が空いたので座った。川越まで一駅だし、立っててもいいかなと思ったけれど、かなりしんどかったので、座りたいという欲望には勝てなかった。

 しかし眠いな。はやく布団に入って眠りたい・・・。


 「お客さん。終点ですよ。降りてください。」
駅員らしき人物に起こされ目が覚めた。意識が朦朧としていて、訳が分からぬまま電車を降りた。

 あれ?ここはどこだ?
川越ではないのは確かだが・・・。
とりあえずホームの駅名標が目に入ったので確認してみる。

 すると、そこには「熊谷」と書かれていた。
「えっ、くまがや?・・・あっ、そうか!寝過ごしちまったんだ。」
その時になって、ようやく俺は自分が終点まで乗り過ごしたことに気づいたんのだ。

 「やっぱりあの時座んなきゃ良かったなあ。」
そう思ったが、後の祭りだ。どうしようもない。

 どうしようか考えたが、この時間じゃもう上りは終了しているし、東松山駅、森林公園駅方面のバスもとっくに終わっている。タクシーでも使わなければ帰れそうにないが、そんな余裕はない。
当ては無かったが、駅構内にいても仕方ないので、ひとまず夜の熊谷の街へ出ることにした。
人気が全然無くて、寂しいことこの上ない。